LOT.143

古田 織部 (右筆)
消息 (茶事招待)

  • 作品カテゴリ: 茶道具
  • 31.9×45.6cm
  • 紙本・書・軸装
  • 左下に花押
    / 古筆学研究所認定調書付(所長・小松茂美)・堀江知彦箱書・ 小笹喜三箱書
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  • 予想落札価格: ¥1,500,000~¥2,500,000

〈作品について〉


 日本における喫茶の風習は、平安時代の初めに中国からもたらされ、鎌倉時代には禅院を中心に、中国末代の喫茶法が行われました。こうした歴史をふまえて、室町時代には唐物尊重の茶の湯が成立し、やがてその中から、珠光、紹鷗、利休らの茶匠たちによって、新しい道具の選択や創作、茶室の改良や作法の整備が行われ、独特の美意識にもとづく「わび茶」の世界が創造されました。このような茶の湯の歴史は、日本文化の歴史の一環として注目すべき足跡を残していますが、とくに「わび」の美意識は、独自の「茶の美術」を形づくり、その後の日本人の生活感覚に大きな影響を与えています。

『特別展覧会 四百年忌 千利休展』展覧会図録より

 本作品は古田織部の催す茶会への参加者へ向けて、古田織部が文章の代筆を職務とした右筆( ゆうひつ) を介して残した手紙である。手紙は、茶会へ参加する旨を届け出た手紙の受取人に対しての礼状であり、茶会への参加を感謝すると共に、茶会当日には手紙の受取人の他、朝廷において、天皇や皇后に近侍し、食事など身の回りの庶事を専門に行った女官の長である采女正( うねめのかみ) と近江小室藩主で江戸初期の大名茶人であった小堀遠州も茶会に出席する旨を知らせるものであり、受取人が誰であったかは定かでないが、采女正と小堀遠州も同じ茶会に参加するということは、大変喜ばしい知らせであったに違いない。
 織部は、安土桃山時代の大名であり、織部流茶道の祖である。通称左介、初名を景安、のちに重然( しげなり) としているが、本消息の末には古田織部自身によって重然の花押がなされている。また、手紙の中に記されている小堀遠州の「遠州」という通称は、慶長13 年(1608 年)、遠州が30歳の時に従五位下・遠江守に任ぜられて以来のものであるため、この手紙の書かれた年代は1608年から小堀遠州の没する元和元年(1615 年) までの期間であることがわかっている。

 また、本作品には東京国立博物館の資料館長であった堀江知彦と長尾雨山翁の高足であり、元陽明文庫の主事であった小笹喜三による箱書が替えの桐箱になされている。

 消息の魅力は歴史上の人物のあまり知られていない日常生活の中で生まれた感情が読み取り、遠い昔のことを現代に居ながらにして身近に感じられるロマンにある。本作品では茶会への参加表明への御礼に加えて、小堀遠州らの出席も併せて知らせていることから、茶会を間近に控えた古田織部の高揚する気持ちが表されているようである。