LOT.079

Leonard Foujita (藤田嗣治)〈1886-1968〉
Jeune Fille au Rideau de Dentelle Noire (黒いレースのカーテンの少女)

  • 作品カテゴリ: メイン洋画
  • 22.1×16.0cm
  • キャンバス・油彩・額装
  • 左下にサイン「Foujita」・裏面木枠に署名、年記 / 1953年
    / 東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付・Gilbert Petrides 鑑定証書付
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  • 予想落札価格: ¥25,000,000~¥35,000,000

[掲載文献]:『LEONARD-TSUGUHARU FOUJITA (ACR Edition) Volume 2』P431, No.53.56 掲載 (Sylvie et Dominique Buisson:2001年)

[来歴]:Galerie Romanet (アルジェ)


〈作品について〉


 黒いレースの間から顔を覗かせる長い髪の女性が正面を見つめる。表情に大きな動きはなく、長い髪の先を両手でいじる姿からは女性の持つある種の緊張感が伝わってくるようであるが、その口元からは僅かな笑みがこぼれる。繊細に描きこまれた黒いレースの表現は、本作品の制作年である1953 年前後の作品でも複数点見られるが、1924 年に制作されたフジタの名品「エレーヌ・フランクの肖像」におけるジャンヌ・ランバン (Jeanne Lanvin) 製のドレスを想起させる。至近距離から見てもその細かさには圧倒されるほどであり、作家が如何に本作品に対して時間を費やしたかがわかる。そして、控えめな陰影とともに表現されたそれは、作品全体に奥行きを与えるのと同時に柔らかな、優しい雰囲気を作り出している。また、同時にこの黒いレースと女性という表現からは日本画における「簾から顔を覗かせる女性」という伝統的な表現との類似性も見いだされ、その意味では「透影 ( すきかげ) 」( 簾越しに見える人影) のように、女性は奥ゆかしくさと美しさ、或いは恋心を想起させる仕掛けの一つとして機能しているのかもしれない。

 Sylvie Buisson 編纂のレゾネ上、本作品の来歴としてアルジェにあるGalerieRomanet の名前が記されている。Galerie Romanet は現在既に閉業されてしまっているようであるが、1950 年にニューヨークを経由してパリへと戻ったフジタはポール・ペトリデスらの企画で、1954 年に勃発するアルジェリア戦争の前年である1953年にアルジェ( アルジェリア)、ビルバオ( スペイン)、イェーテ(スウェーデン) にて個展を開催したという記録が残されているため、本作品もまた、その際の出品作である可能性が考えられる。そのため、この女性がアルジェリアの女性なのか、はたまた最愛の地パリの女性、所謂パリジェンヌなのかははっきりとしないが、いずれにしても非常に洗練された印象を我々に与える顔立ちである。