〈作品について〉
葛飾北斎の凱風快晴。通称「赤富士」と呼ばれるこの作品が北斎の代表作「富嶽三十六景」の中でも最も有名な作品の一つであることは誰もが知るところである。画題の「凱風」とは南から柔らかく吹く風を意味しており、富士の背景に描かれた鰯雲が穏やかに吹く風を表現する。赤く染められた富士の山肌の表現から、夏から秋にかけての早朝、山梨側から見た富士山であると解釈する説もあり、右隅から左隅へかけての対角線上で大きく分けられた作品構成によって富士の雄大さが際立たされている。
1998 年のLIFE 誌で発表された過去1000 年の間でも最も重要な人物として、画家エドガー・ドガの言葉と共に日本人で唯一選出された葛飾北斎。その作品は2020 年から刷新された日本のパスポートのデザインとしても採用されており、北斎人気はアートマーケットの中でも顕著である。
作品が制作された江戸時代には400 円前後で売られていたとされる浮世絵作品であるが、特に本作品「凱風快晴」は江戸時代からの長い年月をかけて着々とその評価を上げ、現在でのレコードは約1.8 億円ともなっている。日本人の心であり、世界から見た日本の象徴である富士の姿が世界的な日本人アーティストによって描かれた本作品は、今後も国内外からの注目を浴び続けその価値が上がり続けることが期待されるであろう。