LOT.122

Georges Rouault (ジョルジュ・ルオー) 〈1871-1958〉
Atroce banlieue... (Passion)

  • 作品カテゴリ: メイン洋画
  • 43.0×35.7cm
  • 板に紙・油彩・額装
  • 右下にサイン / 1935-1936年
    / Isabelle Rouault 鑑定証書付
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  • 予想落札価格: ¥8,000,000~¥13,000,000

[掲載文献]:『Rouault,L'oeuvre peint,Vol.2』P62, No.1404 掲載 (Isabelle Rouault:1990年))

〈作品について〉

 月の薄明かりに照らされた郊外の風景。画面の手前には二人の人物と彼らに手を差し伸べるキリストの様子が描かれている。麓に街並みの見える画面奥の煙突は赤く描かれており、それは闇夜に広がる炎のようであり、場末の郊外を象徴するものである。郊外におけるキリストの図は他の作品においても描かれているが、これは画家自身がパリ郊外の貧しい家庭で生まれたことに起因している可能性があり、それ故、この図も貧困層の生活風景を暗に示しているように思われるが、画中画を思わせるように画面の外側つけられた太い枠と厚塗りの絵具が施されたキリストの顔と衣服によって、作品にはある種の聖性が付与されているのである。

 1871年にパリの指物職人のもとに生まれたジョルジュ・ルオーは、14歳で装飾美術学校へ通いながら、中世のステンドグラス修復職人もとに弟子入りする。ルオーの作品は見方によってはステンドグラスの作品のようにも見えるが、これには前述した作家の出自が大いに影響していることであろう。1905年のサロン・ドートンヌにフォーヴィスムの作家たちと参加した経緯もあり、フォーヴィスム、或いは表現主義の画家であると認識されることもあるが、作家の残したそのどちらもと取りがたい独自のスタイルが生んだ作品や「他人の方法によって身を救うよりは、自分自身の方法で身を亡ぼす方がましだ」という言葉からすると、ルオーは「派」とは一線を画したところ位置しているといえるであろう。また、ルオーのフォルムと色彩と調和についての「私の色と私のフォルムとは私の思想の鉱石であり、それは私の思想、あるいは少なくとも私の感情と同じ値打ちがある」という言葉は、画家の作り出す作品が内面世界とは切っても切り離せない関係性にあることを示している。

 1939年、ヴォラールによって出版されたアンドレ・シュアレスの詩集「Passion (受難)」のためにルオーは17点のカラー銅板と82点の木版画を提供している。本作品はその木版画を制作するにあたっての素描を後になって油彩画とした、謂わば木版画作品の原画にあたる一枚となっている。版画集の中で木版画に対応する82点の油彩画の内54点は1965年にパリのシャルパンティエ画廊で披露され、その後、作品は散財される危機にも陥ったが、ルオーの「Passion (受難)」を敬愛する川端康成、梅原龍三郎といった文化人たちの勧めにより、出光美術館がまとめて買い取ることになる。この時、出光佐三は「ルオーの線は日本画である」と評し、特に好んでいた仙厓との親和性についても述べたほどであり、これが出光美術館のルオーコレクションの始まりともなっている。出光美術館には収められなかった不足分である28点は、アンブロワーズ・ヴォラールの死後に分散したが、そのうち10点が新たに発見され、本作品はその10点のうちの1枚であると推測されている。)