スペインの教会にて、「修復」で彫刻が台無しに 

2018/07/09 美術トピック

 スペイン北部ナバラ州の教会は、16世紀に作られた木彫りの聖ジョージ像の清掃を美術教師に頼んだところ、彫像がピンクの顔と明るい色の鎧に塗り替えられた、ずさんな「修復」が行われた。オリジナルの絵が失われた可能性もあり、スペインの美術保全協会(ACRE)は声明で、「こうした仕事に必要な訓練が恐ろしいほど欠けていることがわかる」と話した。

 どんな芸術作品も、長い時間を経れば経るほど劣化や破損の運命は避けられません。作品の保存状態や傷は作品の価値に大きく関わり、傷をそのままにしてしまえば悪化する可能性もあります。そのために損傷防止としての清掃や対策、そして修復が必要となってきますが、今回のニュースのようなことがあっては本末転倒です。正しい知識と確かな技術をもった、作品のオリジナルを損なわない修復が、作品の価値を保たせてくれます。

 一方で大きな傷を受け、さらに目立つ修復の痕をもつ作品でも、その傷と修復が作品の重要な要素となるものもあります。

 茶道の世界では、割れや欠け、ひび割れの入った茶碗などを修理する「金継ぎ」という技法があります。これは破損した部分を漆で接着し、その上から金などの金属粉を撒いて接着した部分を装飾していますが、焼き物の肌に金が映え、破損前とは異なる趣をもちます。本阿弥光悦作≪赤楽茶碗 銘雪峯≫(重要文化財:畠山記念館所蔵)は、口縁から胴、高台にかけて大きな火割れがあり、「金継ぎ」が施されています。作者の本阿弥光悦は、茶碗にかけられた白釉を山に降り積もる白雪に、そして火割れを雪解けの渓流にみたてて命銘したといわれ、火割れと「金継ぎ」に芸術的価値を見出して楽しまれています。

 また、大きな傷と修理痕にまつわる逸話をもつ作品として、≪青磁茶碗 銘馬蝗絆≫(重要文化財:東京国立博物館所蔵)があります。本作品は13世紀南宋時代に製作された青磁の優品であり、室町時代には将軍・足利義政が所持していました。しかし底にひび割れがあったため、代わるものを中国に求めたところ、明代の中国にはもはやこのような優れた青磁茶碗はなく、ひび割れを鎹(かすがい)で止めて日本に送り返しました。そして鎹が大きな蝗(いなご)のようにみえることから馬蝗絆と名付けられ、茶碗の評価は一層高まったそうです。

 修復や保存方法は国や時代、作品の状態などによってさまざまです。アイアートでは毎回オークションにさきがけ、下見会を開催いたしております。ぜひ作品を直に手にとり、作品の状態などをご覧ください。皆様のお越しをお待ちしております。

〈次回オークションのお報せ〉
アイアート第53回オークション
開催日: 7月28日(土)11:00~
下見会: 7月25日(水)10:00-18:00
     7月26日(木)10:00-18:00
     7月27日(金)10:00-15:00
会場: 東京都港区新橋5-14-10 新橋スクエアビル3F 

どなたでも無料で参加できる美術品公開オークションになります。ご来場をお待ちしております。